本日の朝日新聞朝刊に「英軍で儀式・相談担う『宗教者』キリスト教以外も採用」という記事がありました。イギリス国防省のサイトに11月15日付けで発表があります。
2005年7月1日現在の英軍兵士を宗教別にみると、キリスト教信者18万3千人、ムスリム305人、ヒンドゥー教徒230人、仏教徒220人、シーク教徒90人です。キリスト教信者には従軍牧師らが約300人いるそうです。今回、ムスリム、ヒンドゥー教徒、仏教徒、シーク教徒の従軍宗教者が、各1名ずつ採用されました。
宗教・文化多元主義政策の一環というよりは、イラク駐留長期化などで、人員不足、定員割れが続く英軍の苦肉の策でしょう。国防省は、人種や宗教を問わず、入隊呼びかけに躍起です。
イングランドで、実際に教会に定期的に通う人は8パーセント、教会参加という点では、全体として世俗化が進んでいます。しかし、BBCによる2000年の宗教調査では、国教会の信者と主張する人が35パーセント、神を信じる人が62パーセント、魂の存在を信じる人は69パーセント、天国の存在を信じる人は52パーセントです。また、2001年の国政調査では、71.6%(4,200万人)が自身をキリスト者と認識しています。組織化された宗教が廃れる一方で、人知を超えたものに対する畏敬の念がまったく失われたわけではありません。
一方、様々な国からの移民があり、人種的に混在するイギリスでは宗教も混在しています。2001年の国政調査では、ムスリム159万人(人口比2.7%)、ユダヤ教徒27万人(人口比0.5%)、ヒンドゥー教徒56万人(人口比1.0%)、シーク教徒37万人(人口比0.6%)、仏教徒数15万人(人口比0.3%)です。ヒースロー空港には、キリスト教徒に加え、ムスリムが礼拝する場所も存在します。中等教育での必須科目である「宗教教育」では、キリスト教に加え、イスラーム、ユダヤ教、ヒンズー教、シーク教、仏教を学びます。人種差別も未だに根強いイギリス社会ですが、エスニック・マイノリティが増加するにつれ、多文化主義的な方向に否応無しに舵取りを強いられています。伝統主義者や保守層の反発もありますが、政権樹立の前にトニー・ブレアが訴えた「全員参加型社会(stake-holding society)」は、まさにこの現状に鑑みてのイギリス社会のひとつの選択でしょう。
イギリスでは、130以上の刑務所において、宗教者500人以上が慰問活動をしています。信仰がない人、犯罪を犯してその刑務所で一生過ごす人、罪を犯したことを悔いている信仰者、様々なバックグラウンドをもつ受刑者の心のケア・改心・回心・反省のサポートを宗教者がおこなっています。
今回の英軍従軍宗教者の記事は、宗教者が戦争におもむき、その宗教者のケアを別の宗教者が行うという構図を浮き彫りにしています。宗教が地域紛争や戦争の原因だという指摘や、歴史を紐解いても、宗教が政治に利用される場合や逆に政治を利用する場合があります。宗教の暴力性も指摘されます。一方、諸宗教に利他主義の理念があります。宗教を一律に論じることはできません。