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稲場圭信の研究室 Keishin INABA

大阪大学大学院教授(人間科学研究科):専門は共生学。地域資源(寺社等宗教施設と学校)と科学技術による減災が近年の研究テーマ。日本最大の避難所情報、未来共生災害救援マップ(災救マップ)開発・運営

元同僚、サラ・ジョゼフ:英国人とイスラーム

11月18日、朝日新聞の夕刊総合面に「等身大のイスラム教徒伝える。情報誌エメル」という記事がありました。テロリズムでイスラム過激派に対する取り締まりが強化され、反イスラム機運が高まる中、創刊2年を迎える英国生まれのイスラム生活情報誌「エメル」がイスラム世界と西洋の架け橋として注目されているという記事です。
この雑誌の編集長、サラ・ジョゼフは、私がロンドン大学の大学院博士過程で研究している時の同僚でした。ロンドン生まれのカトリック信者の家庭に育ったイギリス人サラは、ムスリムと結婚した兄の影響もあり、イスラムに改宗し、大学院のセミナーにもスカーフをして参加していました。多文化政策を進めているイギリス、ロンドンでも、ムスリムに対する差別、危険視があり、それがサラが「エメル」という雑誌を作った動機のようです。ムスリムだって、多くの西洋社会の人々が享受している文明の利器を使っていますよ、まったく理解不能な人たちではない、というメッセージでしょう。

ロンドン同事多発テロの後、ブラジル人が地下鉄でテロリストと誤認され射殺された事件がありました。しかし、そこから暴動には発展しませんでした。先日、フランスで暴動が起きました。ロンドンの事件がパリで起きたいたら、今回同様、暴動になっていた可能性があります。フランスの同化政策とイギリスの異文化尊重(多文化)政策の違いであり、移民たちのおかれたいる状況がことなるという分析があります。

しかし、ロンドン、パリに住んでいた者として、はっきり言いますが、そのような単純な図式ではとらえられません。政策の上では、確かにイギリスは文化尊重政策です。シーク教徒はターバンを頭に巻いているのでバイクのヘルメットに頭が入らない、ならば、ターバンを巻いたシーク教徒はヘルメットなしでバイクを運転することを認めよう、というような政策です。しかし、ロンドン、イングランドは人種のるつぼ(メルティング・ポット)ではありません。メルト(融合、溶け合って)いることはなく、モザイク、あるいはサラダ・ボール状態です。パキスタン人の住む地域、インド人が住む地域、韓国人が住む地域など、民族、人種でわかれている地域があります。ちなみにパリはロンドンに比べて、人種をこえたカップルが多いのが一目でわかります。では、ロンドンでは暴動にならず、パリではなぜ暴動になったのか。事件の発生の背景、国の文化政策、移民の置かれている状況、経済状態などを総合的にみて分析する必要があります。人間行動の分析として様々な知識が必要とされます。あなたなら、どのように分析しますか? 研究の場として、神戸大学発達科学部の先に大学院がひらかれています。