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稲場圭信の研究室 Keishin INABA

利他主義・市民社会論、ソーシャル・キャピタルとしての宗教に関する研究、宗教社会学:::稲場圭信(大阪大学大学院教授) Keishin INABA(Ph.D.)'s site for the study of altruism, civil society and religion as social capital.

イギリスの子育て・幼児教育事情(中)

・稲場圭信「イギリスの子育て・幼児教育事情(中)」『一冊の本』朝日新聞社、2007年10月号、pp.8-10、2007年10月
の一部抜粋です。

 願いをこめて子どもの名前をつける。それはイギリスでも同じである。書店では命名の本が売っている。二〇〇六年、伝統的な名前の人気上位は、男の子ではトーマス、ジェームズ、ウイリアム、女の子ではエミリー、シャロット、エマ。現代風の名前では、男の子がタイラー、ハーヴェイ、ハリソン、女の子がミア、ポピー、マディソンだ。
 名前だけでなく、子どもの将来を思って環境を整え、教育に熱心な親もいる。20年前は幸せであれば成績は気にしないという親が多かったが、近年、教育熱心な親が増えていると、八月一二日付けのタイムズ紙で記者が自分の子育て体験をもとに述べている。中流階級でも安定した収入で生活するには厳しい競争に勝たなければならない。能力社会(meritocratic society)で競争が厳しくなっているのだ。
 知育玩具のお店もあるし、書店に行けば、子育て・幼児教育雑誌が多数存在する(Practical Parenting、Nursery Education、Early Years Educationなど)。学習教材の数と種類にも驚かされる。幼児教育雑誌や学習書を作成しているSCHOLASTIC社の初等教育カタログをみると六〇頁にわたり様々な学習教材がのっている。コンピュータを使った教材も人気だ。ただ、幼児の知育教育、早期教育に関しては、雑誌での取り上げられかたからしても日本の方が熱心のようだ。
 
 イギリスというと規律、子どものしつけの厳しい国というイメージがあるだろうか。確かに、授業を妨害したり、暴力をふるったりする生徒には、腕をひっぱったり、体を抱えたりするなどの実力行使が認められている。しかし、首や髪の毛をつかんだり、平手打ちをしたりなどの行為は1986年の体罰禁止法により禁止されている。家庭内ではどうかというと、しつけとして平手打ちをする親もいるようだ。幼児子育て雑誌(Mother & Baby 2007年8月号)の調査では、子どもが悪いことをした時、平手打ちをするかどうかについて、「決してしない」が24%、「ひどく悪いことをした時にはする」が73%、「週一くらいでする」が2%であった。心理学者が、平手打ちなどの体罰はよい結果を生み出さない、子どもはすぐに平手打ちの痛みになれて繰り返す、平手打ちなどの体罰をうけている子は自分自身でも問題解決の早道として他者へ暴力をふるうようになると述べている。
 イギリスでは、ナーサリー(保育所)ではしつけをしない。しつけは、基本的に家庭でなされるものと考えられている。しつけの内容や方針も家庭によって異なるので、ナーサリーでは自主性を重んじ、のびのびと過ごさせるのだ。

 イギリスは、ドラッグや非行だけでなく、テロや誘拐事件など、子どもを取り巻く環境は日本に比べると厳しい。一方、妻の実感でもあるが、子どもを抱える母親を厄介物扱いせずに勲章のように扱うのがイギリス社会だ。バスや電車ではすぐバギーのスペースを確保してくれるし、席をゆずってくれる。郊外のスーパーには車椅子専用駐車スペースの横に子ずれの親専用の駐車スペースが入り口付近にある。子どもには厳しい社会環境にあって、子育てにやさしい社会でもあるのだ。

 前回ふれた友人のダレンだが、彼は娘をカトリックの公立初等学校にいれるために、通学校区が少しずれるが、カトリック教会に頻繁に通い推薦状をもらった。そして、見事、希望の学校に娘を入学させることに成功したのである。通学校区のために引っ越すこともあると前回書いたが、キリスト教の学校の場合にはこのような手もあるのだ。キリスト教、ユダヤ教、イスラームの学校が国の助成金を受けているということ自体が日本人には驚きかもしれないが、それが多文化国家、イギリスの実情なのである。

 イギリスは私立と公立の教育の格差が非常に大きい国である。公立でもカリキュラムは同じでもその質と成果は学校によって差が大きい。昨今、日本ではイギリスの教育を手本とするべきだという論調があるが、実情はどうであろうか。確かにイギリスの考えさせる教育は、幅広い教養にもとづき学問的思考をさせる点で素晴しいと思う。また、学力向上カリキュラムをもとにした全国共通テストやその結果にもとづいた学校評価など様々な改革は興味深い。しかし、この夏、昨年の教育調査の報告で問題点が次々と指摘されている。次回は、この点にもふれてみたい。

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