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稲場圭信の研究室 Keishin INABA

利他主義・市民社会論、ソーシャル・キャピタルとしての宗教に関する研究、宗教社会学:::稲場圭信(大阪大学大学院教授) Keishin INABA(Ph.D.)'s site for the study of altruism, civil society and religion as social capital.

イギリスの子育て・幼児教育事情(上)

稲場圭信「イギリスの子育て・幼児教育事情(上)」『一冊の本』朝日新聞社、2007年9月号、pp.9-11、2007年9月
の抜粋です。

2007年6月の入梅の時期に日本をイギリスに向けて出発した。オックスフォード大学とロンドン大学の客員研究員として9月下旬まで滞在する。
 関西空港からロンドン・ヒースロー空港まで12時間のフライトは小さい子どもには退屈だ。わが家族には乳幼児がいるので、決め細やかなサービスも考えていつも利用している日本航空に今回もお願いすることにした。客室乗務員にバーバラさんという英国人がいた。彼女は機内サービスの合間に長女の話し相手になってくれた。長女には生まれた時から英語の子守唄や子どもむけの歌(nursery rhymes)を聞かせ、英語で歌ったり踊ったりする教室にも楽しいというので通わせていた。私も自分のへたな発音が娘にうつるのを心配しながらも英語で話しかけていたのである。イギリス滞在の助走はできているはずだ。しかし、滞在期間中、長女は日本の友だちがいない環境におかれる。大丈夫だろうか。英語で話しかけるバーバラさんにアニメのキャラクターを見せ恥ずかしそうに話す長女。心配するよりも何事も経験である。


 8ヵ月の次女はフライトの後半はぐずったり、泣いたりして、次女をあやす妻は一睡もできずじまい。私も次女をだっこして狭い通路をあやしながら何度も歩いた。ヒースロー空港に到着した時には家族皆が疲れきっていた。しかし、このあと入国審査が待っている。厳しくて、待ち時間が長いイギリスの入国審査。すでに長蛇の列があった。長女も疲れた足取り。すると、そこへ係員がやってきて、別ルートから最前列に私たちを案内してくれた。そこには、私たち家族と同じようにバギーに乳児をのせた家族がいた。幼い子ども連れを優先してくれるのだ。滞在期間中に何度も経験することになるが、イギリスは子ども連れに優しい社会だ。

 ヒースロー空港からは車で移動した。インターネットで日本から手配してあった送迎会社の車のドライバーはパキスタンからの移民であった。彼はイギリスに住むようになって12年目。私たち家族と同様に4歳と9ヶ月の二人の女の子がいるという。

 道中、ハプニングが起こった。出発してまもなく次女がウンチをしてしまったのである。渋滞の中、ドライバーにお願いして、オムツかえのためにサービスエリアによってもらった。気持ちを入れかえて出発すると、今度は長女が車酔いで吐いてしまった。それも2回も。その度に車をとめてもらった。ビニール袋をもっていたので、車の中を汚さずにすんだのは幸いである。

 ドライバーは同じ年齢の子どもがいるからだろうか、いやな顔ひとつせずに、とても親切であった。しかし、イギリスの社会と教育について彼に聞くと、よい返事は返ってこなかった。小学校の近くで10歳くらいの子がタバコをすっているし、親をののしっている子どもをよく見るとのこと。好き勝手にしていて、大人に対して敬う気持ちがないと、どこかで聞いたような話をする。

 彼の親戚はロンドンのカムデン(音楽やマーケットなどで若者に人気の地域)の小学校に子どもを通わせているが、人種差別によるいじめが酷いという。しかし、先生は何もしてくれない(useless and helpless)らしい。「イギリス人は人付き合いの駆け引きが上手(diplomatic)で、腹のそこでは何を考えているのか分からない。自分にとって利益がある場合には、つながりをもつが、そうでない場合には交流することもない。自分の利益のことしか考えていない」と彼の批判が続く。

 イギリスに到着して、はじめに会ったのは私のイギリス留学以来12年のつき合いがある友人、ダレンの一家である。私はダレン、奥さんのエヴァにイギリスの子育て、教育について聞いてみた。
 「学校教育で重要視されるのは自主・自律(autonomy)。それが極端な利己主義になってしまうこともある。それが教育の難しいところ。日本では、クラスの中で出来ない子がいると優秀な子が教えたりすることもあるようだが、イギリスでは出来ない子のために優秀な子が時間を無駄にし、犠牲になることはない」とダレン。幼児教育も熱心だろうと思うと、そうでもないようだ。特に幼児教育の雑誌などを読んでいるわけでもない。ジャスミーナは公立小学校に通っている。
 イギリス(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドからなるが、ここでは人口の九割近くを占めるイングランドとウェールズで話を進める)では九割以上の子が公立校に通う。イートンなどの私立の全寮制の伝統校(パブリック・スクールという)に通うのは一握りの裕福な家柄の子だけである。
 問題は、公立でも評判のよい学校と悪い学校があり、日本と同じように通学校区(School Catchment Area)があるので、そのために引っ越す家族があるということだ。その数、毎年約6万世帯。日本と同じで教育熱心な親御さんが多数いる。エヴァは、「義務教育は無料のはずなのに、そこに入れるために引っ越しなどのコストがかかるのはおかしい」と現状を問題視する。

 私のイギリス滞在のスタートと機を一にして、首相がブレアからブラウンにかわり、内閣改造が行われた。教育を司る省は、ふたつに分離された。「子ども・学校・家族省」と、「改革・大学・技術省」である。ちなみに、「文化・メディア・スポーツ省」もあり、日本の文部科学省が担っていることを三つの省で担当する仕組みだ。
ブラウン首相は、教育改革を矢継ぎ早に打ち出した。イギリスの子育て・教育はどこへ行こうとしているのだろうか。

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