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稲場圭信の研究室 Keishin INABA

大阪大学大学院教授(人間科学研究科):専門は共生学。地域資源(寺社等宗教施設と学校)と科学技術による減災が近年の研究テーマ。日本最大の避難所情報、未来共生災害救援マップ(災救マップ)開発・運営

ピーター・ドラッカー氏と非営利マネジメント

「経営学の父」と称された米経営学者ピーター・ドラッカー氏(95)が11月11日死去しました。「現代の経営」「イノベーションと起業家精神」など約30の著作を残しています。一方で、ドラッカー氏は、非営利活動にも積極的で、著作も残しています。
『非営利組織の経営―原理と実践』は、
NPO、NGO、宗教団体、学校などの非営利組織のマネジメントのあり方をインタビューをもとに明らかにした本です。1991年、ドラッカー氏82歳の時の著作です。
本書が刊行された当時、アメリカでは、成人の二人に一人が、NPOでボランティアとして活動し、少なくとも週に3時間を非営利活動に費やしている。「非営利セクターが、アメリカにおける生活の質と、市民としての行動の中枢にあり、まさしく、アメリカの社会と伝統の価値を担っている」のであり、非営利機関こそがアメリカのコミュニティである。(序論)
ちなみに、
 1998年のアメリカでは、人口比55.5%、1人当たり週平均3.5時間
  Independent Sector "Giving and Volunteering in the United States 2000"
 2001年の日本では、人口比28.4%、1人当たり週平均2.5時間、
  総務省統計局「平成13年度社会生活基本調査」

ドラッカーの本書でのメッセージは明快である。

「非営利機関は、人間変革機関である。その「製品」は、治癒した患者、学ぶ子供、自尊心をもった成人となる若い男女、すなわち、変革された人間の人生そのものである。」(序論)

重要なことは、組織の使命と戦略である。そして、それらを遂行する上で必要なのが、リーダーシップと意思決定である。

使命
「非営利機関は、人と社会の変革を目的としている」おり、まず重要なのは使命を定めること。そして、人と社会の変革を目的としているのだから、非営利機関に対する最終的な評価は、使命の表現の美しさではなく、行動の適切さによるべきだ(5頁)。

「使命の表現は、それに基づいて現実に動けるもの」でなければならず、非営利組織のマネジャーの役目は、組織の使命と定めてことを行動目標として具体化していくことである。

使命達成に必要なのは三つ、「機会」「能力」「信念」であり、使命の表現には、この三つが示されている必要がある。そして、問うべきは、「なにが機会であり、ニーズであるか」、「その機会やニーズに自らが合っているか」、「しかるべき成果をあげられそうか」、「能力を有しているか」、「自分たちの強みを発揮できそうか」、「本当に信念をもってやれるか」である(11頁)。

戦略
非営利機関には四つ、計画、マーケティング、人、資金が必要である。計画を成果に結びつけるのが戦略であろう。その戦略には、マーケティングが必要であり、人、金を調達することが必要である。マーケティングとは、市場をセグメントし(区分する)、ターゲットし(絞り込む)、ポジションする(位置づけする)ことである(STPマーケティング)。つまり、非営利活動を行う上で、自分たちが関る市場を見つけ出し、自分たちをどのように位置づけるか、どうしたら有益な力となるかを発見することである。
「戦略が、非営利機関の使命と目的を行動に転化させる。」
「戦略は、まず第一に、市場を知ることから始まる」
「自分たちが差し延べる支援を受け取る人々を、恵みを受け取る人とは見ないこと、善を施すべき対象とは見ないことである。彼らは、非営利機関によって満足させられるべき顧客である。」(125頁)
「戦略は使命から始まる。そして戦略から作業計画が立てられる。戦略は、正しい道具を開発したところで終わる。」(129頁)

倫理的か? 成果か?
成果をあげるためのマネジメントが、インタビューにもとづき具体的に論じられている。
「勝つための戦略」
「市場の定義する」
「寄付者という支持層の構築する」
「成果をあげるため意思決定」
「ボランティアから、無給のスタッフへ」
「理事会を機能させる」
「人を育成する」
「範を示せ」

非営利、NPOというと、ファンドレイジング(資金調達)、ファンドデベロップメント、成果といったことを議題にすることを忌避する傾向が日本にはまだ強い。社会に対する、人に対するあたたかい思い、思いやりがあるから当然だ、利潤を追求する企業とは異なるという声もある。しかし、運営のもととなっている資金は、税金をもとにした助成金や、企業から助成金、市民の寄付金など善意の結集であり、受益者の負担金である。NPOのリーダーは、そのことを再度、肝に銘じる必要があろう。活動の内容、使命が倫理的なものであったとしても、その具体的な追求は成果をだすものでなければならない。

ドラッカーはこう書いている。
「非営利機関には、正しいことだからという理由だけで限られた資源を浪費するのではなく、成果のでるところに資源を振りむけるという義務がある。非営利機関には、寄附をしてくれる人々、顧客、そして働いてくれるスタッフに対して、この義務を負っている。非営利機関は、人間を変革する機関である。したがって、その成果は、つねに人間の変化のなかにある。すなわち成果は、人間の行動、環境、ビジョン、健康、希望、そしてなかんずく人間の能力と資質に現れる(139,140頁)。」

ピーター・ドラッカー著作(非営利)リスト

ピーター・ドラッカー著作リスト