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稲場圭信の研究室 Keishin INABA

利他主義・市民社会論、ソーシャル・キャピタルとしての宗教に関する研究、宗教社会学:::稲場圭信(大阪大学大学院教授) Keishin INABA(Ph.D.)'s site for the study of altruism, civil society and religion as social capital.

宗教と利他主義研究:「思いやり格差社会」の到来

(日本宗教学会第65回学術大会、2006年9月17日発表の要旨:原題『宗教と利他主義:現代社会の新たな動きの分析』)

 現代社会に生きる人びとの心と行いに「思いやり格差」が生まれている。時には自分を犠牲にしてまでも他者のために行動をする人、利他主義の実践者。少しの時間でも他者のためにボランティア活動をする人。自分の利益と豊かな老後だけを考える人。日本という国で日本国民から得た収益、それを高い税金で取られてはたまらないと海外に拠点をうつす企業、法人、資産家。利潤をあげ、自社のブランドを守るためには、消費者の安全をないがしろにし、隠蔽工作を繰り返す企業。お蔭様やお互い様といった言葉を忘れ、自分のことしか考えない自己実現や成功者という言葉に酔いしれる実業家。経済格差は問題ではあろうが、次の世代への橋渡しとしての大人の責任を考えると、利他主義、「思いやり格差」の方がより根本的で、重要な問題である。
 昨今の青少年が関与している殺人事件の報道にふれ、自分の子が被害者のみならず、加害者になるのではないかという不安を抱える親がいる。殺伐とした世の中、拝金主義の社会、勝ち組負け組みの格差社会。現代日本の社会に忍び寄る「思いやり格差社会」を、そこに生きる当事者である私たちひとりひとりの問題として考える必要がある。そして、そのような社会に生きる現代人として、思いやりを見つめなおす人がいる。ここに研究対象として、宗教と利他主義の重要性があり、欧米先進国でそのことが認識されている。また、宗教者の側からの応答もそこにあり、近年、宗教と利他主義、宗教と福祉、宗教とボランティア、宗教と平和など、宗教の社会貢献活動の研究が増えてきている。

 最近では、宗教と利他主義の関係を、ソーシャル・キャピタルの視点から捉える研究がでてきた。ソーシャル・キャピタルは、社会的資本、あるいは社会関係資本などと日本語訳されるが、それは、人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴を意味する。

 宗教集団の存在それ自体がソーシャル・キャピタルとして社会貢献している場合も多い。他人を信用しにくいリスク社会で、人々は、ソーシャル・キャピタルの乏しい関係性を生きている。信頼にもとづく人間関係なしでは人間は生きにくい。それを人々は求めているが、世の中では得られない。宗教集団はその中に信頼の構造をもち、社会に貢献しているとも考えられる。また、宗教組織における人材の育成も社会貢献といえる。そのような観点からイギリスやアメリカ社会が宗教集団をソーシャル・キャピタルとして注目している。一方、ソーシャル・キャピタルの根幹にある信頼を悪用するカルトも存在する。まさにリスク社会の象徴といえよう。

 宗教と利他主義の関係、そして社会貢献活動は、古代中世の慈善救済的な活動はもとより近代以降の民間社会事業としての先駆的な活動など長い歴史を有している。しかし、日本では、そのような活動に対する社会的認知度や期待が低い。それは、戦後の政教分離政策や公教育における宗教教育の排除などの政策的影響に加えて、宗教者のスキャンダルやカルト問題などによる宗教不信と関連している。一方で、宗教者の社会貢献活動があまり報道されてこなかったともいえよう。しかし、二〇〇六年八月二六日から二九日まで京都で開催された世界宗教者平和会議(WCRP)の第八回世界大会を四〇ほどのメディアが取材した。二〇世紀半ば、ハーバード大学の社会学者ソローキンが利他主義研究センターを立ち上げた時、人間の負の部分ばかりを見るのではなく、人間の善なる面、他者への思いやりや利他的な行動を研究するべきであるという彼の思いがあった。何か共通点を感じる。研究者も例外ではないだろう。

その他の資料
■イギリスの9.11後
・イギリス政府は、テロ行為を唱導するような言説に対する規制を強化
・とりわけ2005年7月のロンドン地下鉄・バステロ以降
・アラブ人を見る目
・The Employment Equality (Religion and Belief) Regulations 2003によるムスリム解雇裁判
・GCSEの宗教学
Spirituality
1)An important part of spirituality for many people is the search for the meaning of life.
2)It’s about feelings of awe and wonder, or a sense of inner peace.
3)Spirituality could also be described as being self-aware.   
・Keeley, Sharon & Alan Rix eds. 2005 GCSR Religious Studies, Coordination Group Publications.

項目として、キリスト教、ユダヤ教、イスラーム。しかし、現実には、
・宗教学校は禁止すべき 44% ・学校においてムスリムのヒジャーブを禁止 Yes 44%, No 37%
・学校教育の宗教学の授業で、イスラームの基本的な信仰について教えるべき Yes 46%, No 43%
 (Sept. 6, 2006 Evening Standard & London Lite)

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