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稲場圭信の研究室 Keishin INABA

利他主義・市民社会論、ソーシャル・キャピタルとしての宗教に関する研究、宗教社会学:::稲場圭信(大阪大学大学院教授) Keishin INABA(Ph.D.)'s site for the study of altruism, civil society and religion as social capital.

世界宗教者平和会議

 世界宗教者平和会議(WCRP)の第8回世界大会が、8月26日から29日まで京都国際会館で行われた。約100カ国から、仏教、キリスト教、イスラームなど諸宗教の指導者ら2000名以上が集い、紛争解決、平和構築、持続可能な開発について、宗教者の役割と具体的な実践を討議した。国際機関やNGOの代表者も多数参加し、パートナーシップを模索している。宗教組織だけでなく、京セラ、エルメスなどの企業や政府も資金援助しているWCRPの大会だが、私は研究者枠で招待され参加した。
宗教者と宗教団体の平和活動や社会貢献活動は、古代中世の慈善救済的な活動はもとより近代以降の民間社会事業としての先駆的な活動など長い歴史を有している。しかし、日本では、そのような活動に対する社会的認知度や期待が低い。それは、戦後の政教分離政策や公教育における宗教教育の排除などの政策的影響に加えて、宗教者のスキャンダルやカルト問題などによる宗教不信と関連している。一方で、宗教者の社会貢献活動があまり報道されてこなかったともいえよう。しかし、今回の大会を40ほどのメディアが取材した。二〇世紀半ば、ハーバード大学の社会学者ソローキンが利他主義研究センターを立ち上げた時、人間の負の部分ばかりを見るのではなく、人間の善なる面、他者への思いやりや利他的な行動を研究するべきであるという彼の思いがあった。何か通じるものを感じるのは私だけであろうか。

大会の最終日、29日の全体会議で、この取り組みの困難さと同時にその重要さが如実にあらわれた。イスラエルのラビがレバノン情勢やパレスチナ問題にふれ、ヒズボラの捕虜になっているイスラエル兵士の解放を求めた後、パレスチナ側が、子どもを含めて無辜の民が殺されているとイスラエルを非難したのである。さらにアメリカの暴力と国連のダブルスタンダードにも言及し、激しい口調でイスラームの正義を訴えた。この数日間の諸宗教の対話と平和への道を模索する会議が水泡に帰すような雰囲気となった。しかし、それに続くイスラエルのキリスト教聖職者とWCRP事務総長ベンドレー博士の言葉により、会場全体が平和を築こうという強い意志で再び結ばれた。世界のあちこちで「何故あなた方は私たちを殺すのか」と非難し合っているが、相手の痛みを自分の痛みとして感じないことには、平和は築けない。すべての宗教が平和への道を説いている。憎しみは憎しみによっては鎮まらない、というメッセージである。

世界各地の紛争当事国の宗教者による非公開会議も50ほど行われた。公開会議では、ウガンダ内紛の話しもあった。遠い国の出来事として、日本だけでなく、世界の多くの国々が無関心である。ウガンダの宗教者は「地球村でウガンダだけが孤立しているわけではない。ウガンダの問題が解決されたら、皆さんの問題がひとつ解決されたことです」と訴えた。世界で極度の貧困のために毎日5万人が死んでいる。グローバル企業の陰で劣悪な環境で働かされ搾取されている東南アジアの子どもたちがいる。同じ地球人として私たちはどこまで想像力を働かせ、共感を持つことができるであろうか。

平和の構築は、現実的には不可能であるという人もいよう。しかし、可能かどうかの問題ではなく、平和にむかって皆が取り組まなければならない課題である。その努力、対話の積み重ねが、理想を実現ならしめる唯一の道である。日本社会は、近年、理想を熱く語ることをクールでないとして遠ざけてきた。しかし、このWCRPに参加している宗教者は愚直なまでに平和という理想を求めて活動しているのだ。

近代化の過程で政治や経済などが機能分化し、公的領域における宗教の影響力が低下する世俗化が様々に議論されてきた。しかし、世界において今なお宗教の影響力は失われていない。世界人口65億人のうち、キリスト教徒21億人、ムスリム13億人をはじめ諸宗教あわせて8割以上の人が何らかの信仰をもつ。そして、宗教者が社会的に大きな役割を担い、様々な社会貢献活動を展開している現実がある。

今回のような大会は交流の場、討議の場として必要であろう。しかし、より大切なのは、ひとりひとりが日常のなかで実践することである。大会では、「行動計画やルールがあっても実践されなければ意味がない」との声も多かった。WCRPの宗教者、そして、この会議に参加していない多くの宗教者が、NGO、国連組織、政府、企業など様々な機関と連携しながら平和の構築にむけて実践する重要な責任をおっている。そして、平和構築の第一歩は地域社会での継続的な取り組みである。世界平和という大いなる理想の実現は、そのような地道な取り組みの積み重ねの上になされるものであろう。

(稲場圭信「WCRPに参加して:第一歩は地域社会での取組み」『神社新報』2006年9月11月 6面に加筆修正)

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