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稲場圭信の研究室 Keishin INABA

大阪大学大学院教授(人間科学研究科):専門は共生学。地域資源(寺社等宗教施設と学校)と科学技術による減災が近年の研究テーマ。日本最大の避難所情報、未来共生災害救援マップ(災救マップ)開発・運営

被災地における宗教施設・宗教者の災害救援・復興支援活動の調査報告(2012年4月27,28日)

被災地における宗教施設・宗教者の災害救援・復興支援活動の調査報告(2012年4月27,28日)
写真つき詳細報告書は以下(PDF)
http://keishin.way-nifty.com/jp/files/20120427.pdf

被災地での宗教施設と宗教者の災害救援活動の調査に関しては、調査被害を考えて2011年4月から慎重に検討を進めてきました。福島原発の被害沈静化も先が見えず、行方不明者も未だ多数という現状と仮設への移行など様々な状況を検討した上で、パイロット調査も経て、2011年7月から連携しての調査を進めることにしました。
 以下に「宗教者災害救援マップ:訪問した施設」
http://sites.google.com/site/fbnerjmap/home/visited

□月山神社(神社本庁)岩手県陸前高田市
陸前高田では著名な神社である月山神社は指定避難所ではないが、高台にあり、研修道場もあるために多くの人が避難した。当日は避難者が200人、2日目から多くなり400人くらいが最初の3日間を過ごした。食べ物は、そばくらいしかなく、神社の千歳飴なども出した。5月の末の解散まで70名くらいが生活をした。

□青龍寺(曹洞宗)宮城県気仙沼市
復興といっても、一個人がどうか出来るということを超えている。目の前にあるものをひとつ、また、ひとつと取り組む。あまり目標を立てすぎても難しい。後ろにさがらないような気持ち。その繰り返し。問いかけをしながらニーズにこたえていく。平常時以上にそれが必要である。商店街の方々、地域の方々と協力しながら、取り組んでいる。

□浄念寺(浄土宗)お花見餅つき大会 気仙沼
 大地震の直後に、指定避難所の幼稚園よりもさらに高い場所にある浄念寺の境内に人々は逃げた。境内を避難者が埋め尽くした。落慶式をまだ終えていない新築の本堂を開放し、多いときには300名ほどの避難者を、最長で三ヶ月以上にわたって受け入れた。
 このお花見餅つき大会の企画は、責任者の島田絵加さん(駒込大観音として知られる光源寺副住職、自殺対策に取り組む僧侶の会)、さらに、小野静法さん(東京都北区の善光寺副住職、自殺対策に取り組む僧侶の会相談員)、宮坂直樹さん(浄土宗総合研究所、浄土宗東京教区教宣師前会長、浄土宗社会福祉推進委員)らが中心的に進めてきた。
 提供されるのは、餅つき(もち米40キロ、250食)、入浴剤づくり、お米配布、けんちん汁などである。その他に、昨年9月よりいわき市内の仮設住宅にて毎週開かれている「浜○かふぇ(はままるかふぇ)」が“出張”カフェの形でコーヒーなどを提供した。
 今回、大分から運ばれた1.5トンの米は、「大分米一升運動」によるものである。企業が寄付したものではない。大分教区浄土宗青年会が日田商工会議所青年部とフードバンク日田と共同で呼び掛け、檀家の人たちが、困っている人にむけて、一人が2キロ、5キロ、10キロとそれぞれに寄付したものである。そのひとり一人の思い、善意が集まったものだ。
 浄念寺の檀家の方は、「ありがたい。他の地で災害が起きても、自分たちにはとてもできないことだ」としきりに感謝していた。橋住職、副住職は、「まだまだこれから。壮絶な体験をされた方々。仮設住宅に入られても、皆さん大変な生活をしている。まだまだ支援が必要。ボランティアの方々の支援がありがたい」と語った。

 他にも支援活動をしている教団が多数ある。世の中の多く人が知らないが、宗教者は、宗教団体は、様々な支援活動を展開している。継続している。そして、そのような僧侶の生き方、社会との関わりの話を聞き、その思いに共感して、お寺に育っていない学生も支援活動に参加した。その学生は、「おかげさまで自分は生かされている。仏教とかではなく、生き方にひかれて自分も何かしようと思った」と語る。
 宗教者の生き方に感銘して、宗教を持たない学生もボランティアに参加したのだ。ロールモデルとして、宗教者の利他的な生き方、倫理観が社会へ浸透していく可能性がある。無自覚の宗教性にもとづいたボランティアもいる。そのような事例があるのだ。先日、このような宗教者の利他的な生き方に対する社会的認知度が5年前と変わらずに低いという調査結果がでた。私としては、引き続き、そのような利他的な生き方をフィールドワークしてゆきたい。

 地域のつながりを奪われ、家族を無くし、さまざまな縁を失った人たちが、これから生きていく、その伴走者となる。そのような苦難にある人を思いやり、苦に寄り添う宗教者が今いる。仮設住宅に入っても数年間、大変な生活は続く。宗教者、そして、宗教研究者にも息の長い関わりが必要とされている。

調査にご協力くださいました皆さまに感謝申し上げます。